初期短編集。
はじめて池波先生の現代小説を読んだ。
どれも心温まる良いお話であったが、何か物足りなさを感じた。
『土俵の人』はタイトル通り相撲取りのお話。
華々しい立身出世物語ではなく、地味に十両に落ちるかどうかの瀬戸際の男が主人公。
理想と現実、相撲の栄光と生活が生々しく交錯する。
そして男は崖っぷちで境地に辿り着き、女はそれを支える。
良い話だ。オチも綺麗。
さて、先生の永遠のテーマと言えば、
「生と死……」
に尽きるわけだが、やはりその『死』に関する概念が違う。
時代小説と現代小説では、そこが大きく違う。
相撲取りが相撲に負けても、例えそれが“真剣勝負”であっても、命をとられることはない。
しかし剣士の戦いは、本当に真剣勝負である。
重さが違う。
この本のあとがきに「時代小説について」という先生の文章が引用されている。
「現代は『死』をおそれ『生』を賛美する時代である。『死』があればこそ『生』があるのだということを忘れてしまっている時代なのである」
時代小説は、単に古いことを書く小説ではない。
歴史の書き写しでもない。
まさに『死』と『生』を身近に浮かび上がらせるものなのである。
その意味で、やはり先生には時代小説が似合うなぁ、と再確認した次第。
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